数値解析:連立微分方程式
現在工事中です。工学特に化学工学の分野に現れる連立の常微分方程式および連立の偏微分方程式の解法について以下解説する。 基礎的な数学の知識や数値解析の知識が必要な方は、「微分方程式」のページを参照されたい。
連立常微分方程式
工学の分野、特に化学工学の分野で現れる常微分方程式には、拡散方程式と呼ばれる2階の微分方程式がある。しかしながら、化学工学の問題として、3階以上となる微分方程式が現れることはめったに経験しない(わたし自身、いまだ経験したことがない)。これら高階の微分方程式は変数変換により連立の一階の微分方程式に変換することができる。 \[ \begin{align*} \frac {d^ny}{dt^n} & = f \Bigr( t, y, y', y'', \cdots, \frac {d^{n-1}y}{dt^{n-1}} \Bigr) \tag{1} \end{align*} \]
このとき、変数変換として \[ \left. \eqalign{ \begin{align*} y_1 & =y, \\ y_2 & =\frac {dy_1}{dt}= \frac{d^2y}{dt^2}, \\ & \cdots \\ y_n & =\frac {dy_{n-1}}{dt}= \frac {d^{n-1}y}{dt^{n-1}} \\ \end{align*} } \right\} \tag{2} \] を採用すると、連立常微分方程式の数値解法(たとえばRunge-Kutta法など)を適用し、解を得ることができる。
通常の常微分方程式も同様であるが、解くためには、必要な数の初期条件または境界条件を必要とする。初期値問題であれば多くはRunge-Kutta法などの通常の解法で解くことが多い。 また、境界値問題は、初期値問題を繰り返し解き反復させて解く反復法、差分問題に変換して解く差分法など解き方は問題による。
化学工学で現れる、反応器の典型的な混合モデルの、非定常の完全混合槽モデルの物質収支式(3)や定常のプラグフローモデルの物質収支式(4)は、その成分濃度についてみれば、連立の微分方程式を構成している。 反応器の混合モデルの詳細については、「技術計算:反応工学」および「技術計算:混合・拡散」のページを参照されたい。 \[ \begin{align*} & V \frac{dC_A}{dt} = FC_{A0} - FC_A + Vr_A \tag{3} \cr & u \frac{d C_A}{d z} = - r_A \tag{4} \cr \end{align*} \]
プラグフローモデルも、N分割の槽列モデルに等値し近似することから、非定常のプラグフローモデルは、N元の連立常微分方程式(5)式となる。定常状態のプラグフローモデルは、差分化して N元の連立方程式(微分方程式ではない)となる。 \[ \begin{align*} & \frac{\partial C_A}{\partial t} + u \frac{\partial C_A}{\partial z} = - r_A \tag{5} \cr \end{align*} \]
流体解析(CFD)は、次項で述べるように連立偏微分方程式を解き、速度、圧力、温度、濃度などを三次元的に求めることをしている。これらの基礎式を簡略化したり前提条件を設けることにより、たとえば定常状態の流れ方向(z方向)の変化だけを解析するということであれば、連立の常微分方程式を解くことになる。 反応器シミュレータは、速度を一様分布とみなし、化学反応を考慮し、運動量収支式を解かず、熱収支と物質収支を解くことをしている。
このように工学分野に現れる微分方程式は、ほとんどが連立の常微分方程式または偏微分方程式となっている。
代表的な解法
連立常微分方程式の解法は、大きく分けて 陽解法 陰解法
連立偏微分方程式
非定常の一次元解析(時間を独立変数とみなすと時間と空間の2つの独立変数をもつ)、定常の二次元解析(たとえば円筒座標系の軸方向と半径方向の二次元)など、少なくとも2つ以上の独立変数があるとき、基礎式は偏微分方程式となる。
工学、特に化学工学分野の流体解析(CFD:Computer Fluid Dynamics)においては、通常、速度場、圧力場を、時には温度場、濃度場を従属変数とし、これらの三次元分布を解いている。 流体解析(CFD)では、時間、空間を独立変数とし、従属変数として3次元速度、圧力、温度、成分濃度などを したがって基礎となる方程式は、連立の偏微分方程式となっている。
速度を摩擦力のない一様流とみなし、温度場と濃度場だけを解く「反応器シミュレーター」も独立変数が 2つ以上であれば連立の偏微分方程式となる。
流体解析を始め、反応器シミュレーターの支配方程式が連立偏微分方程式の場合には、時間・空間の従属変数を 格子に刻む必要がある。有限差分法では格子をグリッド、有限要素法ではメッシュと呼称するが、同じ意である。
化学工学の分野で現れる流体解析については、技術計算:流体解析に詳しく述べる。 また、その解法のひとつである有限差分法(FDM: Finite Difference Method)は、技術計算:有限差分法で、 有限要素法(FEM: Finite Element Method)は、技術計算:有限要素法で詳しく解説する。
演習問題の解答
上の例題の解答、および関連ファイルのダウンロードは、こちら(未リンク)で取り扱っています。
Literature Cited
- 引用文献
- 1) 化学工学会編:「改訂6版、化学工学便覧」、丸善(1999).
- 2) 日本機械学会編:「流れの数値シミュレーション」、コロナ社(1989).
- 3) 森口、宇田川、一松:「数学公式 I,II,III」、岩波(1973).
- 4) Fletcher,C.A.J:”Computational Techniques for Fluid Dynamics, Vol.1&2”,2nd Ed. Springer-Verlag(1991).
- 5) 城塚、平田、村上:「化学技術者のための移動速度論」、オーム社(1973).
- 6) 渡部、名取、小国:「数値解析とFORTRAN」、第3版、丸善(1983).
- 7) Press,W.H.,S.A.Teukolsky,W.T.Vetterling and B.P.Flannery:"Numerical Recipes in Fortran 77",2nd Ed.,Cambridge (1992).
- 8) Press,W.H.,S.A.Teukolsky,W.T.Vetterling and B.P.Flannery:"Numerical Recipes",3rd Ed.,Cambridge (2007).
- 9) 山田:「化学工学のための数値計算法」、槇書店(1982).
- 10) 杉江ら:「FORTRAN77による数値計算法」、培風館(1986).
- 11) 大野、磯田監修:「新版 数値計算ハンドブック」P.199、オーム社(1990)