技術計算:物理・化学
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ここでは、化学工学という工学部の分野で、理学部の基礎分野である物理(学)と化学を 極めて限定的に、しかも大雑把に解説します。もともと筆者は理学部系ではないので、専門的な 話はできません。それで、計算機を用いる技術計算、特に化学工学を対象とする技術計算に 現れる、この分野の基礎知識を概観しようとするものです。
技術計算の部屋を構築するにあたって、何の考えも持たず、「物理・化学」という一章を
取り上げてしまい、どんな内容を記述しようかと考えました。が、いい考え、アイデアが浮かばず、
とりあえず、未完をなくそう、ホームページをなんとか繋げようとして、以下、記述しました。
悪しからず、ご容赦のほどお願いします。
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などIE8以外のブラウザを利用下さい。
【注】「物理」という言葉は、ここでは「物理学」という学問分野を意味しています。「化学」には「学」という字がついているのに
物理はついていないことに奇異を覚えますが、本章は慣習に従います。
次元・単位系など
物理学と化学は、小中学生のころは理科の授業で一緒くたにされていました。高校生になって初めて、
授業の科目として「物理」、「化学」と分かれました。高校ではほかに「生物」「地学」という授業もありました。
工学系でしかも化学系の専門課程になると、「物理化学」という物理と化学の中間領域というか、物理と化学のオーバーラップした領域を取り扱う学問分野が
授業として出てきます。いわゆる「物質」の性状とか形態とかの変化を取り扱います。
物理・化学にともに関連し、技術計算に関連する話題として、単位のはなしを以下紹介します。
単位のはなし
物理学にしても化学にしても、ものを数え、数値で表すことをします。長さ(length)、重さ(質量)(mass)、時間(time)という基本単位を使い、ほとんどの物理量を
このM、L、T(それぞれの大文字をとったもの)で表すことができます。
たとえば、速度は次のように定義されます。
\[
\begin{align*}
(速度) & =\frac{(進んだ距離)}{(掛かった時間)} \tag{1a} \\
[m/s] & =\frac{[m]}{[sec]} \tag{1b}
\end{align*}
\]
速度の単位は、右辺の進んだ距離の単位を[m]、掛かった時間の単位を[s]とすると、[m/s]となります。長さを[m]、質量を[kg]、時間を[sec]で
表した単位系をMKS単位系、[cm]、[g]、[s]で表した単位系をCGS単位系といいます。
式(1b)に示すように、単位系も右辺と左辺では、加減乗除することで、一致し、保存されます。
また、MLTを使って表すと、速度は、次元\( {\rm [LT^{-1}] }\)をもつと表現します。
同様に、加速度は、以後の速度と以前の速度との時間あたりの変化を示します。
\[
(加速度)=\frac{(以後の速度)-(以前の速度)}{(掛かった時間)} \tag{2}
\]
従って、単位系は、MKS単位系では、[m/s2]、MLT系では\( {\rm [LT^{-2}] }\)となります。
上の式(2)の分子の速度差を示す'-'(マイナス)などのように、加算・減算するときは同じ単位をもつもの同士
を加減算します。
物理学の法則などに現れる初歩的な量は、以下の定義式で表されます。
\[
\begin{align*}
(運動量) & = (質量) \times (速度) \tag{3a} \\
(力) & =(質量) \times (加速度) \tag{4a} \\
(圧力) & =(力) \div (面積) \tag{5a} \\
(仕事またはエネルギーまたは熱量) & =(力) \times (作用した距離) \tag{6a} \\
(動力または仕事率) & =(仕事) \div (作用した時間) \tag{7a} \\
\end{align*}
\]
従って、MKS単位系で表すと、それぞれ上式に代入し、次のように表されます。
\[
\begin{align*}
kg・m/s &= kg \times m/s \tag{3b} \\
kg・m/s^2 (\equiv N) & = kg \times m/s^2 \tag{4b} \\
kg/m/s^2 (\equiv Pa) & = N \div m^2 \tag{5b} \\
kg・m^2/s^2 (\equiv J) & = N \times m \tag{6b} \\
kg・m^2/s^3 (\equiv W) &= J \div s \tag{7b} \\
\end{align*}
\]
ここで、\(N\)はNewton、\(Pa\)はPascal、\(J\)はJoule、\(W\)はWattです。ここで示した初歩的な量の単位換算は気象予報士試験
の計算問題などで出題されることもあります。力、圧力、エネルギー、動力の単位 \(N、Pa、J、W\)をMKS単位系で表したときの
換算をできるように、これらの関係式を覚えておくことが大切です。
気象予報士の試験では、ときどき計算問題としてこの種の計算が出題されます。
温度とモル
熱を取り扱う時、物理量として「温度」が現れます。温度は熱の強さをはかる尺度であって、熱量の大きさをはかるものではない。
温度の単位として、Celsius、Fahrenheit、Kelvin、Rankineがあり、日本ではCelsiusの[℃]、絶対温度Kelvinの[K]を使うことが多い。
熱エネルギーとして、質量m [kg]の物質をΔT [K]だけ温度を変化させるのに必要な熱量(またはエネルギー)Qは、その物質の比熱をCp [J/kg/K]とすれば、
\[
\begin{align*}
Q & =m C_p \Delta T \tag{8a} \\
[J] & = [kg] \times [J/kg/K] \times [K] \tag{8b} \\
\end{align*}
\]
で表されます。
一方、化学分野で純物質を取り扱うとき、その量を表すのに「モル」を使うことが多い。理想気体の法則とか、化学反応では
モルを基準にして表現した方が取り扱いが簡便になる。
純物質の1モル [mol]とは、その分子量に等しい質量[g]と定義される。たとえば水、H2Oの場合、分子量はおよそ18であり、
1モルは、約18グラムに当たる。以前は1モルを1gmol(いちグラムモルと発音)と表記し、分子量に等しい質量として[kg]を採用
したときの、1kgmol(いちキログラムモル)と区別していた。
しかし、近年はgmol、kgmolの代わりに、[mol]、[kmol](キロモルと言う。kは103の意)を使うことが多い。
物理学のはなし
「物理学のはなし」ということで大上段に構えるつもりは全く、化学工学を専攻した工学系技術者
から見た物理学の話をしてみたい。また化学と対比し述べてみたい。
物理の印象は、一般的には、ニュートン力学のように基本となる原理原則を表す法則、あるいは公式から成っているという印象が強い。
いわゆる、数学をベーストして理路整然たる論理に貫かれている、典型的な理系の学問として捉えられていると思う。
理想気体の法則などは、現実には存在しない理想的な(あるいは仮想的な)気体を導き出して法則化し、取り扱うことにより、数学的な処理(微積分など)を簡単にしていて、
その誘導量を導き出す操作をしている。いわゆるモデル化を行っていて、現実の気体とのずれを少なくなるように、モデルを追加したりすることが多い。
化学工学との関連
物理学の範囲がどこからどこまでかは明確に定義されている訳ではない。
理学部系の物理学では、素粒子とか重力波とかを取り扱う分野がありますが、これらの観測・測定装置の設計・製作にはある意味で化学工学
の分野に相当するかも知れませんが、それ以外には直接関わり合いはありません。
一般に(というか筆者が在学した当時の)工学系大学の教養学部では、古典力学、統計力学、量子力学、電磁気学などの授業があります。
また、専門課程になると、熱力学、流体力学、高分子物理学などの授業があります。
熱力学は、物理化学という科目に分類されるかも知れません。また流体力学も機械工学科の科目にもあります。
物理法則:保存則
工学系の化学工学で、特に反応工学の分野では、物理法則である保存則を基本とし、モデル化・定式化を行い、
計算機を利用したシミュレーションをすることで、スケールアップや反応器などの装置設計につなげます。
1) 質量保存則
2) エネルギー保存則
3) 運動量保存則
4) 成分保存則
一つ目の質量保存則というのは、化学反応を含め状態の変化の前後には、質量(mass)は変わらないという法則です。
化学反応の前後には、分子原子の構造が変化しますが、原子の数そのものは変わりません。化学工学とくに流体力学では、質量保存則を「連続の式」とも言います。
二つ目のエネルギー保存則とは、化学反応を含め状態の変化の前後には、総エネルギーは変わらないという法則です。総エネルギーには
運動エネルギー、位置エネルギー、熱エネルギーなどがあります。
三つ目の運動量保存則は、流体力学で現れる流体の速度場を規定する運動量が、運動の前後で変わらないという法則です。運動量保存則には、通常、流体に働く重力、圧力などの外力を考慮に入れます。
また、運動量収支式を簡便にするために、相対的に影響の小さい項を省略することをします。
四つ目の成分保存則は、化学反応がないとき、状態の変化の前後には、その成分分子の重量が変わらないという法則です。化学反応があっても、反応による着目分子の消滅、生成を考慮に入れて
成分保存則を適用します。化学工学でいう、物質収支をとるときには、成分保存則に則って収支を考えます。
化学のはなし
もうすでに、化学反応とか化学工学という言葉を出してしまいました。
化学というのは、分子・原子の化学構造の変化を取り扱う学問分野です。「化学」を「ばけがく」と呼ぶときもあり、
まさにもの(物質)が化けることを取り扱います。
化学工学との関連
工学系の大学の教養課程で学ぶ化学には、 原子・分子、化学構造、電子配置、イオン、周期律表、化学式、化学反応、反応速度、 酸とアルカリ、中和反応、溶解度、燃焼、化学平衡 といった分野があります。
工学系の大学の専門課程で学ぶ化学には、 分析化学、反応工学、有機化学、無機化学、高分子化学、電気化学、物理化学など 石油化学、石炭化学、放射線化学、生化学、農芸化学 などがあります。生化学とか農芸化学は医学部系、農学部系にもあります。
化学工学は、主に工業的規模の化学機械または化学装置を設計するという学問であり、上に示したあらゆる化学分野で使われる機械または装置
に関わってきます。典型的には、ある化学反応を起こさせる場、すなわち工業的規模の反応器の寸法、内部構造を決めるための、ひとつの学問分野
です。
ここで、工業的規模というのは、大量生産、連続生産を目的とするもので、いわゆる一回限りの単独の、試験的な、小規模な装置を対象とするものではない。
反応に限らず、物質の輸送、相変化、温度変化に伴う種々現象を扱う機械の設計をします。
化学反応
化学のはなしでは、なんといっても化学反応を主体に取り扱います。酸アルカリによる中和反応、有機合成反応、電気化学反応、重合反応、燃焼反応、生体反応など様々な反応を取り扱います。
これら化学反応で、特に化学工学分野で取り扱われるものは、上にも記したように大規模な、工業生産規模の反応を対象にします。しかしながら、工業規模以前の開発段階で実施される、試験管とかビーカーのスケールの、いわゆる実験室
規模で行われる化学反応は、工学部系の工業化学科とか合成化学科、応用化学科といわれる学科で取り扱われます。
新しい物質を作り出す合成ルート開発、処方開発に相当するものです。化学反応を促進させる触媒の開発もこの分野に相当します。
化学工学は、こうした実験室規模で行われた処方を、工業生産規模にまで大規模化するための、装置設計を行う学問と言えます。
化学工学のはなし
化学工学では、その学問がそもそも石炭化学や石油化学を通して発展してきた背景があって、
おもに、石炭・石油資源を出発物質として、化学製品を製造する装置、機器、手段を研究する学問です。
従って、石炭・石油の元である、炭素、水素、酸素の元素記号でいえば、「CHO」からなる分子を主に取り扱います。
稀に、窒素、硫黄、リンなどを含むこともあります。
「化学工学」は、以前、化学と機械工学とをミックスした「化学機械」という言葉が使われていた。
亀井三郎編「化学機械の理論と計算」、産業図書(1959)1)という図書は、筆者が学生時代のバイブル的図書でした。また、
藤田重文監修「単位操作演習」、化学技術社(1960)2)という図書もバイブルといわれ、研究室のゼミのテキストとして利用した記憶があります。
石炭・石油を原料とし、これに化学反応を起こさせ、目的とする化学製品にするのですが、
化学反応を取り扱う学問として、化学工学の中に「反応工学」という分野があります。
反応工学では、反応の条件、反応速度、反応触媒などを取り扱い、最終的には反応器の設計に繫げます。
単位操作
ちなみに、前出の「単位操作演習」2)の主な単位操作は、流体の流れ、粒子の運動、熱移動、蒸発、物質移動、
蒸留、ガス吸収、液液抽出、調湿、乾燥、粉砕、撹拌、集塵、沈降分離、濾過といった項目があります。
どういう訳かわかりませんが、「化学反応」とか「反応工学」といった項目がどこにも現われていません。「反応工学」は
「単位操作」ではないということでしょうか。
上に掲げた単位操作の各項目は、ダイレクトに機械装置に結びついています。ポンプや圧縮機のような流体機器、蒸留塔、吸収塔、
熱交換機、撹拌機、濾過機などを考えれば、いわゆる化学プロセスを構成する機器の一品一品と結びついています。
逆にいえば、化学プロセスを分解して、操作毎に分類したものを「単位操作」と言っている。ここで化学プロセスとは、
最終の化学製品を製造するための工程プロセスを意味します。
反応工学に関わる話題は、他のページでしていますので、そちらを参考にしてください。
化学工学という分野はこれ以外にも、プラントの運転、安全、制御、材料などの学問も含まれていますが、一般論のはなしはこれくらいにします。
化学工学のうち、単位操作関連の話題は、他のページ技術計算:化学工学で紹介しています。
また、反応工学に関わる話題は、技術計算:反応工学で紹介しています。
物理化学のはなし
「物理化学」という学問分野は、主に大学の専門課程で出てきます。高校の授業では物理か化学のどちらかで取り扱っていたように思います。
物理化学は、名前の示すとおり、物理と化学の境界領域を取り扱っています。具体的には、
相変化、溶解、蒸発、吸収、物質の性状(物性)などを取り扱います。
物性については、別のページ技術計算:物性・熱力学で触れています。
実験のはなし
物理および化学では、「実験」がついてまわります。理論物理とかは別ですが。
実際にものを取り扱う実験を行うことで、その結果から仮設が真実かどうか確かめることをします。
理系の学問では、実験事実というのは非常に重要視されます。
以前、STAP細胞の実験ノートがほんの数枚というか走り書き程度で極めて少ないのが話題になったけど、理学系にしろ工学系にしろ、
実験ノートは、再現性を確認、トレースするときの証拠となるものだから、実験するときは毎日毎日ノートに記録しているのが普通で、工学部出身の筆者からしても異常だと感じた。
それはさておき、実験するには、費用がかかり過ぎるとか、現実的でないときは、いわゆる「計算機実験」ということをします。
計算機実験では、疑似モデルという現実をまねたモデルを使い、計算機の力を利用して、結果がどうなるかを机上で数値実験します。
疑似モデルですから、いろいろな仮定や前提が入っていて、現実世界で起こっていることと違う結果になることも、可能性としてゼロではありません。
気象予報の世界で、地球大気をモデル化し、スパコンを利用して、流体解析し、気象予報に役立てられています。しかし、大気をモデル化しているため、
長期予報の予測精度は、期間が長くなるほど落ちてきます。アンサンブル予報などで統計学を利用して精度アップを試みていますが、やはり限界があります。
物理実験、化学実験の結果を解析するとき、やはり計算機を利用します。実験データ解析をすることで、理論とのずれを解析し、さらに
そのずれの原因を想定して、理論モデルをブラッシアップすることをします。
化学反応実験の場合には、実験データを用いて、反応速度解析を実施し、反応速度とか反応次数を求めることをします。これにより、将来のスケールアップ、
工業化規模の反応器を設計するときの基礎データとなります。
反応速度解析については、別のページ、技術計算:反応速度解析で詳しく述べています。
参考図書ほか
特に参考とする本は、以下のとおり。いづれも古い図書で古本屋で探さないとないかも。
- 参考図書・文献
- 1) 亀井三郎編「化学機械の理論と計算」、産業図書(1959).
- 2) 藤田重文監修「単位操作演習」、化学技術社(1960).