技術計算:反応器モデル
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典型的な反応器モデル
反応器を机上で解析・シミュレーションする上で必要な基礎式(モデル)を構築するとき、
- 反応器内部の混合モデル
- 反応器内部の流体挙動・運動
- 反応器内部の解析領域
- 反応器内部の解析精度
理想流れモデル
完全混合一槽モデル
完全混合モデルでは、流入する流体は瞬時に反応器内に存在する流体と均一混合し、流入する容積流量と同じ容積流量で流出すると考える。流出流体の組成も反応器内流体の組成と同一であると考える。
反応器容積 V 、入口容積流量 F 、出口成分 CA 濃度 のときの非定常物質収支式は、 反応速度 rA とし、次式で表される。定常状態では(1)式左辺がゼロとなり、単純な非線形連立方程式となる。 差分化する必要はない。
VdCAdt=FCA0−FCA+VrA(IC1):CA=CA, ini, t=0
ここで左辺は蓄積項、右辺第1項は流入項、第2項は流出項、第3項は反応による生成項を示す。
プラグフローモデル
流れ方向をz軸とし、線速度 u で流れる管型反応器で、A成分の一次元非定常物質収支式は次式で表される。解析空間として、時間と空間の2次元、偏微分方程式となる。定常状態では左辺第1項がゼロとなり、式の形は非定常完全混合1槽モデルと同一となる。
∂CA∂t+u∂CA∂z=−rA(IC1):CA=CA, ini, t=0(BC2):CA=CA, in, z=0
非理想流れモデル
混合拡散モデル
流れ方向をz軸とし、線速度u、混合拡散係数Ez で流れる反応器で、A成分の一次元非定常物質収支式および境界条件(注1)は、次式で表される。
∂CA∂t=Ez∂2CA∂z2−u∂CA∂z−rA(IC1):CA=CA, ini, t=0,z=any(BC2):CA0=CA(0+)−Ezu∂CA(0+)∂z, z=0,t=any(BC3):∂CA∂z=0, z=L,t=any
【注1】上式で表される入口境界条件をDanckwertsの境界条件という。入口で拡散フラックスがあると考える。出口境界条件はLは十分長いとし、出口フラックスゼロとしている。
槽列モデル
全反応器容積VをN等分したとき、第j番目の槽の非定常物質収支式は次式で表される。定常状態では、すでに差分化した連立非線形方程式系を構成している。
VNdCA,jdt=FCA,j−1−FCA,j+VNrA,j, (j=1,N)(IC1):CA,j=CA,j, ini, t=0,(j=1,N)
逆混合モデル
全反応器容積をN等分したとき、第j番目(j=2~N-1)の槽の非定常物質収支式は、逆流比βとしたとき、次式で表される。第1槽、第N槽では右辺係数が少し違う。定常状態では係数行列がTridiagonal Matrixとなっており、差分化された連立非線形方程式系を構成している。
VNdCA,jdt=(1+β)FCA,j−1−(1+2β)FCA,j+βFCA,j+VNrA,j+1, (j=2,N−1)(IC1):CA,j=CA,j, ini, t=0,(j=1,N)
定常時の逆混合モデルは、離散化した混合拡散モデルと式の形が極めて類似している(第j槽の収支式は、j-1、j、j+1の前後3つの槽の濃度に依存している)。
流体挙動・運動
反応器内部の流体の挙動を定式化するとき、上の混合モデルでは流体流速を一定とみなした解析手法であり、更に解析精度を向上 させるには流体流速をも未知数とする解析が必要になる場合がある。流体流速を求めるためにはいわゆる運動方程式と呼ばれる 3次元空間の運動量収支式を解かなければならない。
前節では、各反応モデルに現れる物質収支式(成分の質量保存則)のみを記述した。
物質収支式(成分Aの保存則)以外に、連続の式(質量保存則)、熱収支式、圧力収支式、運動量収支式などの保存則があり、通常これら保存則を連立して満足する必要がある。
いま、単相の反応器の場合を考え、式の数と未知数をまとめると次のようになる。
No. | 収支式 | 式の数 | 未知変数 |
---|---|---|---|
a) | 成分の保存則 | 出現する成分の数M | Cj,j=1,M |
b) | 連続の式(質量保存則) | 1つ(成分の保存則を、成分和したものと同じ) | ρ |
c) | エネルギーの保存則 | 1つ | T |
d) | 圧力の保存則 | 1つ | P |
e) | 運動量の保存則 | 解析領域の次元と同じ数(3Dのときは3つ) | vx,vy,vz |
f) | k-εモデル(乱流モデル) | 2つ(k、ε)の保存則 | k,ε |
e)、f)まで取り扱う場合には、Computational Fluid Dynamics(CFD)に該当し、計算量が急激に増加する。通常の化学工学計算では、解析領域の速度を一定とし、乱流の効果を入れた混合拡散係数や、有効熱伝導度を考慮したa)~d)程度までを解析することが多い。CFDコードの大部分(Fluentほか)は、有限差分法(Finite Difference Method)を用い、非定常の保存則を初期値問題として解き、時刻を無限大まで計算をすすめ、変数値が変動しなくなるまで進め、定常解を得ることをしている(Time Marching)。
気相、液相、固相など単相の反応器以外に、複数の相が共存する反応器の場合には、相(Phase)毎に、これら保存則を同時に連立して解く必要がある。この場合には相間の物質、熱、運動量などの移動現象を、解析モデルに加味する必要がある。二相、三相のときの解析モデルについての詳細はこれ以上述べない。専門書を参照されたい。
直交座標系(x,y,z)の基礎方程式
上のa)からc)に相当する基礎方程式で、(x、y、z)直交座標系での表現形式を表1に示す。通常の反応器モデルでは、こらら一般化された基礎式から前提条件により各項の取捨選択を行い、反応器モデルと特徴を失わないよう簡略化が行われる。
円筒座標系および球座標系での基礎式の方が頻繁に利用される。流れ方向の一次元問題ではz軸を流れ方向とした円筒座標系を利用する。
また、多孔性触媒内部での拡散を考慮し、有効係数を用いた充填層シミュレーションでは流れ方向(z軸)以外に、球形触媒内部の拡散方程式を同時に解くことをする場合もある(CATVOPシミュレータ)。
連続の式: ∂ρ∂t+∂∂x(ρvx)+∂∂y(ρvy)+∂∂z(ρvz)=0
運動方程式: x方向:ρ(∂vx∂t+vx∂vx∂x+vy∂vx∂y+vz∂vx∂z)=−∂p∂x+μ(∂2vx∂x2+∂2vx∂y2+∂2vx∂z2)+Fxy方向:ρ(∂vy∂t+vx∂vy∂x+vy∂vy∂y+vz∂vy∂z)=−∂p∂y+μ(∂2vy∂x2+∂2vy∂y2+∂2vy∂z2)+Fyz方向:ρ(∂vz∂t+vx∂vz∂x+vy∂vz∂y+vz∂vz∂z)=−∂p∂x+μ(∂2vz∂x2+∂2vz∂y2+∂2vz∂z2)+Fz
エネルギー方程式: ρcp(∂T∂t+vx∂T∂x+vy∂T∂y+vz∂T∂z)=λ(∂2T∂x2+∂2T∂y2+∂2T∂z2)+S
拡散方程式: ∂cA∂t(+vx∂cA∂x+vy∂cA∂y+vz∂cA∂z)=DAB(∂2cA∂x2+∂2cA∂y2+∂2cA∂z2)+rA
は、ここで取り扱っています。
- note